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駅のホームを抜け、家路を辿る。
数分歩いたところで、あの日香坂さんがビールを買い求めたコンビニが見えてきた。
明日から休みだし、家に帰って飲むのも悪くない。
けれど生憎、家の冷蔵庫にビールが常時あるほど酒飲みなわけじゃないから、ここで買っていくしかない。
右方向へと身体を反転させ、私の足はそのコンビニへと向かった。
背中から聞こえる「ありがとうございましたー」と言う店員さんの声、ウィーンと音を立てて開く自動ドア。
コンビニの外へと身を投じた私の手には、ビニール袋。
そのビニール袋の中には2本の缶ビール。
今思えば香坂さんと偶然バッタリ会ったのは、どれも残業コースの日で、ちょうど今と同じぐらいの時刻だった。
もしかしたらコンビニに香坂さんが居るんじゃないかと、少しキョロキョロと辺りを見回してみたけれど、香坂さんの姿はなかった。
…当たり前と言えば当たり前、だ。
そんなにあちこちにあの人が出没しているわけでもない。あれは偶然に偶然が重なって起きただけのこと。
大抵、探しているときや意識しているときには現れずに、意表を突いたときに現れるものだ。
別に香坂さんが居るかもしれないと思ったからあのコンビニに寄ったんじゃない。
コンビニに入った瞬間に、“あ、もしかしたら居るのかな”と思っただけ。
――…って、
どうしてこんな言い訳じみたことを考えているんだろう…。
誰に言うまでもなく、頭の中で呟いていた言葉たちはどう考えても言い訳じみていて、それに気づいた途端になんとも言えない感情に襲われた。
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