第5章

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人は誰でも、自分の身に不幸が起こるだなんて思っていない。 毎日目まぐるしいほどにテレビで流れている身の毛もよだつほどの猟奇(りょうき)的なニュースだって、どこか他人事のような目で眺めている。 そして、ホッと胸を撫で下ろすんだ。 自分の平凡で変わり映えのない毎日が、今日も続いていることに。 私も例外ではなかった。 今日もいつも通りの日常が繰り返されると思い込んでいた。 いつも通り会社に行き、仕事を熟し、自宅に帰る。 楽しみにしていた録りためていたドラマを見て、ひとりで晩酌する。 そんな日が、当たり前に待っていると思っていた。 ――けど。 一歩、一歩。 私が進むたびに聞こえるそれは、聞き間違いなんかじゃない。 ドクンドクンと次第と煩くなる自分の脈動。 恐怖から、背中に冷や汗が伝うのが嫌でも分かった。
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