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怖くなって進める足のスピードを速める。
すると、それに比例するように後方の音も早くなる。
ザッ、ザッ、ザッ。
ぼんやりと響く無機質な音。
その音だけでは後方にいる“誰か”との距離が近いのか遠いのか、その判別はつかない。
居たたまれなくなって、進む足をそのまま止めることなく、後方にバッと振り返った。
暗闇に慣れた目が捉えたのは、私の数メートル後ろで電柱に隠れるようにして立っている“人影”だった。
「……っ」
思い切り叫びたいのに、声にならなかった。
人は本当に<驚愕した時、声なんて出ないのかもしれない。
ただ、ヒュッと喉の奥が鳴る音がしただけだった。
私は何かを考えるよりも先に、早歩きだった足を必死に動かして、そのまま全力疾走した。
すぐそばにあった角を曲がり、とにかく全力で走った。
運動が苦手な私は、走るのも遅く体力もないけれど、それでも必死にもがくように走り続けた。
家とは反対方向に走った私は、暗くて細い裏道をくぐり抜けるように進む。
数年ここに住んでいるおかげで、裏道がどんな風に繋がっているのか、だいたいは把握していたから、もしかしたら撒くことができるかもしれない。
そんな微かな希望に縋るように、必死に足を動かした。
「…っはぁ、…っは、」
あれから10分ほど走り続けた私は、気付くとあの日香坂さんと寄り道をした公園に行き着いていた。
入り口にある茂みに、身体を丸めるように小さくして身を隠す。
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