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「……香坂さん…?」
まだ眠気が抜け切っていないトロンとした瞳を向けてくる。
その姿が愛らしくて、意識せずとも自然と笑みが零れた。
「…ちゃんとベッド使えよ」
そう言いながらさらりと髪を撫でれば、雫はくすぐったそうに目を細めて「…帰ってきてたんですか?」と少し掠れた声で問う。
「…あぁ、さっき帰ってきた」
「…そうだったんですね。遅くまでお疲れ様です」
ふにゃりと目尻を下げて小さく笑う雫を見るだけで、今日一日の疲れなんて何処かへ吹き飛んでいく。
その細い腕を引けば、俺の力を借りるように上半身を起こした。
「…また、怖い夢でも見たのか?」
「…え?」
俺の問いかけに雫は乱れた髪を整えていた手を止め、きょとんとした表情を向ける。
「…ここ。泣いた痕が残ってる」
さっき見つけた涙の痕をそっ、と指先でなぞるように触れながらそう言えば、雫は少し驚いたような表情を浮かべた後、ふっと目を伏せた。
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