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「…しつこすぎ」
それが香坂さんが着ていたジャケットだと気づいたと同時にそんな言葉が頭上から聞こえてきて、顔を上げる。
そこにはうんざりとしたような表情を浮かべる香坂さんが居た。
それに何かを言おうとするけど、言葉が見つからないし口の中が乾き切って何も言えなかった。
ただ荒い呼吸を繰り返す私をじっと見下ろす彼は薄い唇をゆっくりと動かして「お前、体力ねぇな」ってバカにした言葉を落として、バカにしたように笑った。
けどそんなものは一瞬のことで、すぐに踵を返した彼は明るい光が灯るコンビニへと姿を消した。
私の手にはまだジャケットがある。
ここで待ってろ、ということなんだろうか。
あの人の行動や考えていることは何ひとつ分からないし予測できない。
もうこのままこのジャケットを持って帰って勝手にクリーニングに出そうかとも思ったけれど、疲労が押し寄せてきてピクリとも動かなかった。
ぺたん…とその場に座り込む。
地べたに座ることに抵抗さえ覚えないくらいには疲れ切っていた。
ふと見上げた空。
――…星はひとつも出ていなかった。
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