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「…そうなんですか」
「…あぁ」
「…たまには外で飲むのも、いいですね」
…不思議だ。
一度目に会ったときも、二度目に会ったときも、苦手だと思った印象は覆されることなく寧ろより一層その印象が根強くついていたはずなのに。
さっきまではこの人と同じ空間にいることが苦痛で仕方なかったのに。
今の私は、自分でも驚くほどに今のこの時間を“心地いい”と感じている。
「嫌なことがあった日は酒飲んで寝るのが一番だろ」
一定のトーンで淡々と並べられた香坂さんの言葉に、私は思わず彼に視線を移す。
まるで私の今日の心情を察しているかのような物言いに少し驚いたけれど、私のことを言っているんじゃなくてきっと香坂さんは自分のことを言ったのだろうと解釈した。
きっと、彼も仕事かプライベートで嫌だと感じることがあったんだ。
「…そうですね」
視線を前に戻してポツリとそう返した私の声に、
「なんかあったんだろ?」
返ってきた香坂さんの言葉に、また引き寄せられるように私の視線は香坂さんの方へと向いた。
どうして分かるの?と、言葉にはならなかったけれどそう言っているも同然の表情をしていたのだろう。
その私の心中でさえも全てお見通しだと言わんばかりに、香坂さんは横目で私を見てから口を開いた。
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