985人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、いつ見ても生気がない顔してるから」
皮肉とも取れる言葉だけど、強ち間違いでもないと妙に納得した。
私はいつも何かに怯えながら全てを諦めていた。
そんな風に、毎日をやり過ごすことしかできなかった。
「それに、肌が白すぎて不健康そうに見えんだよ」
何も言葉を返せないでいると、微かに眉を寄せた香坂さんは続いてそう言った。
その言葉に、思わず少し目を見開く。
「…え、」
まるで零れ落ちるかのようにそんな間抜けな声が出てしまった。
心底驚いている私の顔を怪訝な眼差しで見つめていた香坂さんは「なんだよ」と少しイラついたように私の次の言葉を促>した。
「…以前にも同じようなことを言われたことがあったので…少し驚いただけです」
語尾につれて小さくなっていく声は、微かに震えている気がした。
『…雫は肌が白すぎるくらい白いから…少し、貧弱そうに見えるよな?』
私の頬に大きな手を添えて、優しい笑みを浮かべてそう言った彼を思い出す。
あぁ、どうして。
今、こんなことを思い出してしまうんだろう。
いつだって目を閉じれば浮かんでくるのは優しい彼の顔だった。
優しくて、温かくて、柔らかくて。
そんな風に笑顔を纏う、彼の顔ばかりだった。
締め付けられる胸は痛みを伴い、それに比例するように息がしづらくなる。
思わずブラウスの胸元をぎゅっと握りしめた、その時。
「…昔の男のことか」
バサリと言い捨てられたその言葉に、今度は「えっ?」とさっきよりも大きな声を上げて、俯き気味だった顔をガバっと上げた。
最初のコメントを投稿しよう!