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私よりも随分と高い位置から注がれる、その鋭い眼差しに少し物怖じしてしまいながらも、私は言葉を続けた。
「あの…この間は助けてくださって、ありがとうございました」
――そう。
あの、男の人2人に絡まれていたときのこと。
結局お礼を言えずに立ち去ってしまったことに私はずっと蟠りを感じていた。
「あと…助けてもらったのに、失礼なことを言い逃げしてしまってすみませんでした」
謝罪とお詫びの言葉をやっと伝えることができて、私の胸中はスッキリとした。
ぺこりと下げていた頭を元に戻すと、微かに目を見張っている香坂さんと対峙した。
少し驚いたような表情を浮かべていたのも一瞬のことで、すぐに香坂さんは身体ごと私の方へと反転して、向き直った。
な、なに…?
また何か攻撃的なことを言われるのかと思って、知らず知らずのうちに身体に力が入る。
――けど、
「なんでお前が謝んだよ」
「…え?」
「明らかに悪いのはお前じゃなくて最初に挑発した俺だろ?」
「え、と…」
香坂さんから発せられた言葉は予想外のもので、面食らってしまった。
まさかこの人の口から自分の非を認めるような言葉が出てくるだなんて、思いもしなかった。
「悪くもねぇのに謝んなよ」
「…すみません…」
「だから、そーいうのがイラつくっつってんだよ」
「……」
飽くまで自分の非を認めただけであって、攻撃的な態度と威圧的な口調はいつも通り。
そのことについて謝る気は更々ないらしい。
別に謝ってほしいだなんて思ってないからいいけど。
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