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それでも時々晴れ間が見えることもある。この晴天で水位が下がり、明日は出勤になるかもしれない。今のうちにため込んだ洗濯物を回す。浴室乾燥機が大活躍だ。 二回目の洗濯ボタンを押したところで、紅茶を淹れソファに座る。よく一緒に座っていたソファ。 私は沢畑が現れたらいったい何を言うつもりなのだろうか。 携帯を開き、パソコンを開き、あれから何度となく見返した沢畑とのやりとりを見返す。私は彼に何か言ったのだろうか。彼は私に何か残しただろうか。 写真を開く。これは写りのいい写真。これは写りの悪い写真。外向きの顔。身内向きの顔。これはなんだか違う人みたい。普通はどれ?良いと悪いの真ん中は?良いと悪いの真ん中が本物? 彼は大人だった。彼は完璧だと思っていた。何も怖いものなんてないんだと思っていた。 けれど。 カーテンもなくなった空っぽの部屋を思い出す。 過去を掘り起こしても、何か見つかるどころか見れば見るほどわからなくなる。 頭がずっと重い。気圧のせいだ。空はまた暗くなってきた。 写真フォルダを閉じ、そのままあの隙のない番号にかける。今日も留守番電話の機械的な音声が流れる。 いつもの番号はいつも通り。日課が一つ増えてしまった。
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