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土曜日。昼前に起き出し、カーテンを開ける。灰色の空と水の音。 雨が当たり前のような顔になってきた。ペースを変えないまま淡々と降り続けるのだ。 レースカーテンを閉め、お湯を沸かし、マグカップにコーヒーをたっぷり淹れる。 それを持ってソファで一息ついて電話を手に取り、今日はいつもと違う番号にかけてみた。 「沢畑さんはいらっしゃいますか?」 「沢畑は先日退職いたしました。」 リップグロスの色まで見えるような女性社員の声が言う。電話の向こうでは人の行き来する音が聞こえる。平常運転のオフィス。 「そうですか。」 応える私の唇は、この湿気で潤いこそあるが少し血色が悪い。さっきセットした前髪だってあっという間にくるくるだ。当然、うまく掘り下げる言葉も見当たらない。 窓ががたがたと音を立てている。雨が強くなってきた。風も出てきた。私は電話を切り、部屋に新聞を敷いて、まだ土が入っているだけに見えるバジルの鉢を室内に避難させる。 この電話で大きな収穫があるとも思っていなかったが、あまりにあっさりと今日の予定は終わってしまった。こういう日はどういう時間を送っていたんだっけ。途方に暮れる。 DVDでも観ようかと引き出しを開けると、少しの隙間に気がつく。 ああ、そうか、これも。 隙間の右側の一本を引っ張り出したものの、再生する気も起きずにソファに持ってきて箱を手の中で遊ばせる。解説に目をやる。へえ、こんなこと書いてあったっけ。案外きちんと見ていないものは多い。
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