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「お電話をいただいていましたね。失礼いたしました。」 コールバックという制度がこの男にもあったのか。折り目正しい声に挟み込まれて、糸はどんどん細くなる。色はどんどん薄くなる。私の中で影を失ってゆく沢畑。 「沢畑のことを、教えてください。」 どんなことでもいい。そんな私に、小さい子に言い聞かせるように男は言う。 「もうこの番号にかけるのはやめましょう。ね?」 何か取り繕おうとするが、言葉が出てこない。 「沢畑はもうどこにもいないんです、それでいいじゃないですか。」 繕うも何も、はじめから布すらなかったのかもしれない。 街が水没する。 電話を切り、ソファに横になる。湿気を吸った私の身体は重い。 消去法で考える。 出かけたくはない。 着替えたくもない。誰に会う予定もないから必要もない。 お腹が減ってもいない。 もう眠りたくもない。 死んでしまおうか。いやいやいや。 消去法は必ずしもよろしくない。 クッションの脇に置いた携帯電話を手探りで探し、いつもの番号を押す。 「お客様のおかけになった番号は、現在使われておりません。」 赤い通話終了ボタンを押す。 街と一緒に沈んでしまいたい。しかし、テレビが、明日からの梅雨明けを告げる。 みんなももう慣れたもので、あっという間に浸水した家や道路の整備をして、何事もなかったかのようにまた日常に戻るのだ。 DVDの箱をゴミ箱に入れる。 もう一度手を伸ばして拾い上げ、机の上に戻した。
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