トリガーを引く者

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 スナイパー。孤独な任務である。  といっても、私は暗殺者では無い。  スナイパーには二種類のタイプがいる。待ち伏せてターゲットを狙う暗殺者タイプの狙撃手と、敵と交戦しながら撃つ、軍に所属する狙撃手のような役割だ。  私は、敵との交戦は主に遭遇戦であることが多く、どちらかと言えば、後者にあたる。  その日は、昼間の仕事が上手くいったので、私はゴキゲンだった。夜は、久しぶりにたらふく食い、たらふく飲み、いい気持ちで横になった。スナイパーとしての用心深さがほんの少し、ほころびかけたのは否定できない。  しかし、狙撃するための肉体の機能は常に完全だ。それは、睡眠中であろうと充分に発揮される。 ……ほんの少しの物音だった。  何かを優しく撫でるような、小さな音であったが、私の鼓膜が聞き逃すことは無い。「殺す者は殺される運命にある」普段からそのように思う私は、狙われる可能性をいつも考え、その対策にはぬかりがない。  対策の一つは、小さな灯りを常にともしていること。もう一つは、いつも愛銃を手が届く範囲に置いていることだ。  私は、眠ったフリをしながら、薄目を開ける。敵が近づいても心は落ち着いていた。  つまり、このようなことはスナイパーにとって『よくある事』なのだ。  敵は、奇襲するつもりが、私に奇襲され、その命を終える。  しかし、私が思ったより敵の接近は早く、近かった。高度な隠密接近法の訓練を受けていると思われた。そうなっては、タヌキ寝入りも切り上げだ。目を開き、愛銃に手を伸ばそうとしたその時。  なんと、すでに私の愛銃のトリガーにヤツは触れようとしていた。敵の動きは緩慢である。しかし、その緩慢さが幸いして気付かれるのを遅らせ、先手を打つことに成功したのだ。  私は、銃を取れなかった。  もちろん他の方法もある。飛び道具で無ければ、打撃で勝負を決するのだ。しかし、この期に及んで、私は愛銃をヤツの血で汚すのをためらう。
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