トリガーを引く者

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 私の愛銃の銃口は二つある。たった一回、トリガーを引くだけで、相当の範囲を制圧できる。以前使用していた銃の銃口は一つで、素早いゴキブ……じゃなく、ヤツに直撃せず、二度三度トリガーを引くこともあった。  しかしこの銃は違う。殺傷能力も高いように思う。  その、押す部分……じゃなくてトリガーにヤツはいた。 「よりによって、そこですか!?」  初夏も近付こうとする季節であるが、まだ夜は気温が低い。ヤツは緩慢で元気が無いが、その分、圧倒的優位な位置を占領していた。  思わず、ですます言葉で叫んでしまった私の気持ちを、スナイパー諸君ならば理解していただけると思う。  私は、地図を見ることが好きである。旅行が……じゃなく、戦闘地域を掌握するためだっ。その日も地図を確認して眠りについた。よって、とっさに手を伸ばした時に掴んだのが地図であっても、なんら不思議はない。  私の脳裏からは既に、躊躇は消えていた。  ※※※  私は、喜びと悲しみが入り混じった気持ちで、窓から射し込む月明かりに無残な姿をさらしているヤツと、愛銃を見つめている。  多大な犠牲を払った勝利に、あの達成感と安堵感は、無い。  月光はいつもより、青く感じた。  誤解しないでほしい。私は清潔好きだ。その証拠に、アルコールジェルを持っている。そう、新型インフル対策として、よくスーパーの出入り口などに置いてある、あれだ。  フマキ……じゃなく、愛銃は購入したばかりである。その殺傷能力の分、値も張る。  だから私は、トリガーにアルコールジェルをかけた。  あまりにもその場にそぐわない、ポピュ!という音が、僅かに私の心を慰めた。  しかし…… そのトリガーを握る気持ちには、今もってなれない。  今年は比較的涼しいように感じる。  ヤツの活動期間が短くなると、私は期待している。しかし。  親愛なるスナイパー諸君、油断してはならぬ。  なぜなら、今日も、私の耳に聞こえてくるのだから。  そう、あの独特な、ヤツの気配が……
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