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その声と同時に映画開始のブザーが鳴り、映画が始まった。するとなぜか二人しかいないはずの劇場に人が溢れた。しかしどの人も静かに、映画を鑑賞していた。映像に目を向けながら彼は考えた。そして、気づいた。この映画自体が、少年自身の記憶であるということに。隣に座っているお客や斜め前で頭をかく男性の姿はあの時の記憶と同じだ。映画館が彼の記憶を元に、あの日のあの上映を再現しているのだ。少年は、答えを知ることで満足し、作品を観ることに専念することにした。
映画が終わると少女は立ち上がり、扉を開けてくれた。少年は素直に感じた疑問を投げかける。
「映画館の記憶と想いを繋ぎとめて再現する君は、一体……?」
少女はふふ、と笑って答えた。
「私? 私は貴方と同じ、映画館を愛した、名もない怪盗だよ」
「怪盗……?」
首を傾げた少年の肩を、少女は軽く叩いて言った。
「冗談と思うか、信じるかは貴方次第。……だって、ミステリアスな方が、楽しいでしょう」
こうして映画館の一日は、終わる。明日はどんな作品が上映されるのか、それとも上映されないのか。それは映画館にも、少女にも分からない。
それは映画館が、怪盗と名乗る少女に人知れず、頼んで見せてもらっている永遠の夢……なのかもしれない。
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