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「おいおい、勘弁してくれよ……クソ! どうなってんだよ……」
「ちょっとあなた、ずぶ濡れじゃない! ちゃんと拭かないと風邪ひくわよ?」
衣服に染みた雨水とは異なる、背中を伝う嫌な汗と非常な焦りを覚えながら、なおも電源ボタンを高速で連打していると、僕の帰宅に気づいた母親が開け放ったままのドアから顔を覗かせた。
廊下からここまで、床を水浸しにして来た僕の姿を見て、濡れネズミと化しているその身をどうにかするよう催促している。
「ああ、今ちょっと取り込んでるから後で拭くよ……もう、どうなってんだよ……」
「そんなこと後回しにすればいいでしょう? もお、タオル持ってきてあげるから待ってなさい」
それでも、それどころではない状況の僕が気のない返事を返すだけでいると、事情を理解していない母はそう告げて一旦、部屋を出て行く。
「早く、早くしなきゃ……あっ! もしかして……」
その間にも除湿器との格闘を続けていた僕は、ふと、あることに思い至り、体を屈めて除湿器の裏側に回ってみる……すると、思った通りコンセントが抜けかかっていた。
人間、焦っているとろくなことはない。まったく、こんな簡単なことにも気づかず、ただただ無駄に慌てふためいていたとは……なんと間抜けな話であろうか。
ま、ともかくも、これでようやく部屋の中の湿度を下げることができる。
こいつで部屋の中をカラっカラの乾燥状態にし、やつらが出現しにくいような低湿度の環境を作ってやれば、さすがのあの女も入って来ることまではしないだろう。あとちょっとの間乗り切れば、完全にこの危機から逃れることができる。
「ほら、これでちゃんと拭いて。ついでに熱いお茶も持ってきたから、飲んで体を温めなさい」
「ああ、うん。ありがとう。お茶はそこに置いといて」
なんともタイミングよく、ようやく除湿器が動き出したところで母がバスタオルとお茶を持って帰って来た。
問題が解決し、落ち着きを取り戻した僕はタオルを渡されると、湯呑を卓袱台に置いて出て行く母を見送りながら、濡れた頭をゴシゴシと吹き始める。
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