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「あなた、見えてるんでしょう?」
「ひっ! …う、うわぁぁぁぁぁっ…!」
次の瞬間、激しい雨音の中にありったけの悲鳴を響かせ、僕は全速力でその場を駆け出していた。
さしている傘がほとんど用をなしていないのも気にせず、降り注ぐ雨粒を真正面から浴びながら、僕はただひたすらに家へ向けてひた走る。
やらかした。迂闊にも反応してしまった……やはり、豪雨の中では認識力が著しく鈍る。もしこれが晴れの日であったならば、すぐにあの女がこの世のものではないと気づけていたはずだ。
「……ハァ……ハア……くそっ、まだいる……」
走りながら背後を振り返ると、あの赤い女は10メートルほど後をぴったりついてきている。
歩調はむしろ遅く、別に走っているわけでもないというのに、どこまで走ってもその距離をまったく離すことができない。
「…ハァ……ハァ……もう少しだ……」
時折、淡い期待を抱きながら後を振り返り、相も変わらずそこにいる女にその期待を裏切られつつも、とにかく雨の中をがむしゃらに走り続けると、ようやく愛しの我が家が雨で狭められた視界に現れる。
「…ハァ……ハァ……あと…少しだ……」
なんとか玄関まで辿り着くと文字通り転がるように上がり込み、「ただいま」も言うことなく一目散に自分の部屋へ直行する。
そして、ずぶ濡れの体もそのままに、真っ先に除湿器をつけようとしたのだったが。
「…ハァ……ハァ……あれ? なんでだ……おい、どおしたんだよ!?」
こんな時に限って、なぜかちゃんと動いてくれない。カチカチと主電源を何度となく押しても、運転中を示すオレンジ色のランプは点灯しないし、まるでなんの反応もしないのだ。
普通なら、例え雨の日であってもそこまで問題視することもないのだが、今みたいに〝憑いてこられた〟状況であれば話が違う。やつらが現れやすい湿気の多い環境にしておけば、家の中にまで侵入してくる可能性は大いにありうるのだ。
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