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せっかく除湿器をつけたのに、自分から出る湿気で空気を湿っぽくしては元も子もあるまい。
「ふぅ……」
半ば髪の毛の水分を拭き取り、濡れた服の表面も大雑把に拭ったところで、僕はやっとのこと安堵の溜息を吐く。
これでもう大丈夫だ。先程来、あの赤い女が侵入してくる気配はないし、なんとか危機は脱したようである。
とりあえずはしばしの間、この梅雨時にあってもカラリと乾燥した、心地よい部屋の中で疲れた体を休めることとしよう。
それにしても今回は危なかった……これからはこんなことがないよう、たとえ突然の豪雨に遭ったとしても、慌てず騒がず、もっと用心深く行動するようにしなくては……。
自身の失敗を戒める一方、どこか心地良い疲労感の残る体に安堵の感覚が拡がっていくのを感じながら、僕はなんとなく卓上の湯飲みの方へ視線を向ける。
「さて、お茶でも飲むか……」
湯呑に入った熱い緑茶からは、今の僕の感情を表すかのように、ゆらゆらと揺れる白い湯気が穏やかに立ち昇っている。
湯気の昇る熱いお茶……とても平和な光景だ……。
…………湯気……いや待て、湯気? ……湯気は何でできている? 湯気とは水分が熱せられ、蒸気になってから再び外気に冷やされたものだろう? それって、つまりは空気中に水分を補充して、周りの湿度を急激に上昇させて……。
愚かにも、今さらそのことに思い至った僕は、飛びつくように慌てて卓袱台の上の湯飲みを両手で掴む。
と、その瞬間。
「見いつけたあ…」
そんな粘りつくような女の声が、鼓膜のすぐ近くで聞こえたかと思うと。
「……ひっ!」
目の前を覆う湯気の中から、あの赤いコートを着た女の顔が目と鼻の先にぬっ…と現れた――。
(雨鬼 了)
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