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Bluebell wood(ブルーベルの森)
クロード様に連れられて来た場所はお屋敷から少しだけ離れた森の中だった。
そこは一面に紫色の小さな花が咲いていて、目を奪われる。
釣鐘型をした花が見渡す限り咲いている。
「ブルーベルというらしい。」
花を見て、クロード様が言う。
魔界には無い景色の中でも、俺は特に花が好きだった。
だからきっとクロード様はそれを知っていてここに連れてきてくれたのだと思う。
クロード様を見上げると目が合う。
「ありがとうございます。連れてきてくださって。」
漆黒の瞳が細められる。
俺はこの瞬間がとても好きだ。
笑顔と呼べるのか分からない薄い笑みを浮かべるクロード様。
その顔を見るのが好きだった。
青というよりはやはり紫に見えるその花はベルという名の通り釣鐘の形の花を先端についた花は紫に見えるが良く目を凝らすと青い筋が入っているのが分かった。
可憐な姿が美しかった。
ふと、クロード様が何かを呟いた気がして振り向くと、そこには光輝く蝶が何匹も何匹もひらひらと舞っていた。
金色の細工で縁取られた蝶は薄いガラスでできているみたいで向こう側が少し透けている。
太陽の光を受けてキラキラを羽が光っていてふわふわと花の周りを飛んでいる。
「クロード様、これは――。」
「ああ、魔術の応用だよ。生きては居ないが暫くはこうやって飛び回る。」
花の間をふわふわと飛び回る蝶は、太陽の光を浴びて七色に輝いていて美しい。一匹の蝶が俺の周りを飛ぶ。薄紅色に輝くその蝶に手を伸ばすと、指の上にとまる。
生きていないとは思えない精巧さだった。
金に縁取られた翅脈は金細工の様で、蝶自体も宝石に見えた。
クロード様に見せようと手を動かした刹那、指先から魔力が流れ込んでくる。
直ぐにそれがクロード様のものだと分かり、ふるりと震えた。
蝶を創り出した時に魔力を込めていたのだろう。
「クロードさま」
フウフウと口で息をしないと熱を逃がせない。
気が付くと10羽ほどの蝶が俺に群がっていた。
それがさらさらと金色の粉の様になって消えていく。
その都度泡の様にクロード様の魔力が体にまとわりついた。
「屋敷に帰ろうか。」
そう言って笑ったクロード様の足元にはもう、転送魔法陣が薄青い色で光っていた。
了
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