『治る予定』

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 翌日、久しぶりに何事もなく、全ての予定が滞りなく済んで帰宅の途につくことができた。  家に帰って早速同じ言葉を一週間分書き込むと、やはり全てがうまくいく。  上司からもここ数日はミスが無いなと褒められた。  しかし、物事が上手く行き過ぎると調子に乗るのが人間の性。  数カ月後、よく確認せずに一日分多く書き込んでしまった。  そして一週間経過し、その翌日。  軽い足取りで会社へ向かう最中、石につまづいて打ちどころ悪く両腕の骨を折ってしまう。  通勤途中のことだったので労災が下りたが、両腕をギプスで固められた状態では仕事が出来ない。  入院ベッドでやることもなくぼーっとする日々。  二週間後、経過観察のためレントゲンを撮ると医師が訝しげな顔をする。 「治りが遅いですね……。普通ならこのくらい日数が経っていれば徐々にくっついてくるんですが……まあ個人差が有るものなので」  そう言われた男は、若干嫌な予感がしたがまあそういうものかと思いなおした。しかし、また数週間後のレントゲンでも全く改善しておらず、大型病院への転院を余儀なくされた。それでもなお原因はつかめず、途方に暮れていたある日、病室をノックする音がした。  男が見ると、入り口にはあの老紳士。 「あなた、一週間分以上の予定を書き込みましたね。八日目の予定は効力を失ってあなたは運悪く事故にあってしまった」 「な、そ、そんな! いや、それにしても折れた骨が治らないのはどういう事です!」 「簡単です。あなたが手帳に『骨折が治る』と書き込んでいないからですよ。そうすれば全て解決です」  男は驚いた顔をして数秒の逡巡の後、心底安心した表情を浮かべた。 「それではこれで」  老紳士は、ふ、と消えるように去り、静かな病室を取り戻した。  そして男は、ギプスで固められスプーンすら持てない自分の手を見て絶句し天井を見上げた。
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