海の見える美容院

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海の見える美容院

「なぁ、佐知子。海の見える港町で、一緒に店をやらないか?そう。夫婦でさ」  俊樹は3年前、私にそう言って左手の薬指にダイヤの指輪をはめた。私には頷かない理由などなかった。涙腺が熱くなるのを感じる。そう。私は大好きな俊樹と婚約したのだ。俊樹と私は25歳で、専門学校の同期。お互い4年かけて美容師と理容師のダブル免許を取得した後、それぞれ都心で美容師の仕事をしていた。  キラキラと眩しい空に爽やかな潮風。時に聞こえるカモメの鳴き声。目の前には空の青さを吸い取ったかのような広く碧い海。そしてこれらに囲まれた中に立つオシャレなヘアサロンで繰り広げられる充実した新婚生活……私の脳内でめくるめく新婚生活ワールドが広がっていく。  そして去年の秋、私たちは俊樹の約束どおり海の見える港町でお店を構えることになった。海岸沿いを走る列車の窓から見えるのは澄み渡る青い空にひときわ輝く太陽、そして海岸に押し寄せる波。 ーーさぁステキな生活がこれから始まるぞ!  私の胸は踊っていた。  そう。胸が踊っていたのだ。現地に着くまでは……
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