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1章 この世界と私
私は、愚か者だ。
ついさっきも何も考えずにりんごを食べて
上の階の魔女サラに怒られた。
毒りんごにする予定だったらしい。
毒りんごになる前に食べることができたのは、運が良かった。
私は、愚か者だけど、運がいい方だと自分では思っている。
こんな幸運な愚か者にも名前はある。
私の名前は……
「ルリ」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはサラがいた。
サラは、華やかで美しい。
美人だけど決して飽きさせない魅力がある。
私は、サラの持つ華が大好きだ。
時には毒になってしまう怪しげでいかにも魔女らしい華だ。
そして、時折見せる寂しげな表情も好きだ。
サラの表情は今はもう怒っていない。穏やかだ。
「毒りんごは、あと3日もすれば完成するわ。
ほんとは、6個ぐらい作っておきたかったけど、ねずみさんに丸々1個食べられてしまったから、5個しか作れなかったの。
今度、ねずみ捕りの魔法も仕掛けておかなくちゃね」
サラは、にっこり微笑んだ。
目が笑っていないので、恐ろしい。
サラの凄みに負けずに私も微笑み返した。
「その毒りんごは、今度のダイヤモンド狩りに使う予定なの?」
「そうよ、ルリ。あなたも何か準備しているんでしょう?」
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