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「おい、何、突っ立ってんだ。俺が鍵かけるから、サッサと出ろ」
「……て、ます」
「あ? なんか言ったか」
先に廊下に出た煌に、奏人は真っ直ぐに視線を向けた。
「先輩が俺におっしゃった言葉、ちゃんと覚えてます。でも、それは不可能です。この憎たらしい顔を二度と見せないどころか、明日からは部活以外でも俺と過ごす時間が増えますよ」
「は?」
鋭い眼光が奏人を突き刺した。それが楽しい。
「何? 今、なんつった?」
奏人だけを煌が見ている。たとえ険しい表情でも、それが嬉しい。だから、奏人は煽るように言葉を継ぐ。
「顔を合わせないどころか、一緒に過ごす時間が増えると言いました」
「わけ、わかんねぇ。何、ふざけたことばっか……」
「ふざけてません。花宮先輩、スマホ見てないんですか? キャプテンからメッセージ来てましたよ。学園祭のクラブ対抗企画に先輩と俺をペアで出場させるそうです。キャプテンの指示なので、俺たちに拒否権は一切ありません」
「はあぁっ?」
鋭い眼差しがテンプレの花宮煌が目をまん丸く見開いて驚いている。初めて見るレアな先輩の表情に、奏人の鼓動が大きく跳ね上がった。煌から目が離せないし、奏人の心臓はドクンドクンと痛いほどに激情を奏で始めたのだから、もう誤魔化せない。観念するしかない。
今、奏人は自分の恋心を認めた。
「明日から仲良く打ち合わせ開始、とのことです。俺のツラなんて二度と見たくない先輩にはお気の毒ですが、俺はとても嬉しいですよ。だって俺、あなたに恋してますから」
「……は?」
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