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土岐奏人は、自分を知らなかった。
彼が知っていると思っていた自身は、彼がそうと思い込んでいた幻影だった。
気ままに筆を滑らせたような薄い筋雲が空に流れていた初秋。その日は、まさに奏人にとっての最大の分岐点、運命の分かれ道となった。
平坦だった感情が、突如、奔流となり、抑えきれないほどに溢れ出る。そんな瞬間が、まさか自分に訪れるとは……。
誰にも心を動かされることがなかった奏人に荒ぶる感情を教えた人物が現れた。決められたレールの上を淡々と歩むだけだった奏人の『生』を塗り替えたのは、彼と同じ制服を着た男。
——失せろ。生意気なそのツラ、二度と俺に見せるんじゃねぇぞ。
それまで、チームメイトとしての接点しかない部活の先輩、花宮煌だった。
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