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お葬式が終わった晩に今後のことを母親と紗耶香ちゃんと僕とで話し合った。母親は開き直ったように平常心を取り戻していた。
紗耶香の父が経営していた建設会社は社員が5名ほどの小さな有限会社で経営も堅実だった。その父親が入札談合の疑いで取り調べを受けた。
後で分かったことだが、誰かが父親の会社も加わっていたと嘘の証言をしたらしかった。
父親の会社は社員が引き継ぐことで継続することになっていた。ただ、社長名義の借入金が3500万円ほどあり、その返済をしてほしいと言われて、母親は返済を承諾したと言う。
「合田さん、夫の会社のために自宅を処分することにしました。それから、東京の二子玉川のマンションも処分することにしました。これは紗耶香も承知しています」
「それでは紗耶香さんが大学に通うのに支障があるのでは?」
「紗耶香は大学をやめると言っています」
「そうなのか?」
「はい、母と相談して決めました。学費もかかりますし、思い切ってやめたいと思います。それから、こういうことになったので、婚約も解消していただいてもよいと思っています」
「それは絶対にできない。お父さんとの約束がある。大学の学費は僕に出させてほしい。それから生活のめんどうも」
「先生にご迷惑をかけられません」
「こうしたらどうだろう。紗耶香さんが僕のマンションに引っ越して一緒に住む。1LDKで狭いけど二人でも何とか住める。大学へは僕のところから通えばいい。それから、結婚式を挙げて入籍する。そして、学費は僕が負担する。僕の奥さんのためだから気にすることは何もないから」
「先生はそれでいいんですか?」
「いいもなにもない。これが二人のためのベストだと思うけど」
「そうおっしゃっていただけるのならお言葉に甘えさせていただきます。どうかよろしくお願いします」
「合田さん、娘のこと、どうかよろしくお願いします」
それから当面の日程などを相談して僕は東京へ戻った。
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