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僕は物心のついたときから、同じ夢を見ることがあった。いつも同じ夢で、暗い中で僕が誰かを呼んでいる夢だった。
遠くに人影のようなものが見えるが誰だか分からない。僕は大声で呼んでいるみたいだけど、声が出ていないのか、人影が見えなくなる。そんな夢だった。
月に1回ぐらいは見ることもあったし、しばらく見ないこともあった。幼い「さやか」と出会った前後にその夢を見たかどうかは覚えていない。
僕が中学1年生の時だった。学校の帰り道、子猫を抱いている小さな女の子が歩道にいた。制服を着ていたから女の子はどこかの幼稚園の園児だったと思う。不安そうな顔をしているので気になって見ていると目が合った。
「どうしたの?」
「お家が分からなくなった」
「迷子になったんだね」
「子猫を追いかけて来たら分からなくなった」
女の子は今にも泣き出しそうだった。
「大丈夫だから、お兄ちゃんがお家を探してあげる」
「ありがとう」
「お家の近くにお店とかある?」
「少し行ったところにコンビニがある」
「コンビニか?」
コンビニはこの近くに幾つかあるから見当が付かない。その時、子猫が女の子の手から車道へ飛び出した。それを追って女の子も飛び出そうとする。
あっ車が来る! 僕は女の子の手を掴んで離さなかった。車が目の前を通り過ぎた。手を掴んでいなかったら、女の子は車に惹かれていただろう。
でも子猫を見失った。すると目の前にパトカーが止まった。お巡りさんが降りてきた。
「危ないところだったね。君が手を掴んでいなければ女の子は轢かれていたところだった」
「本当に危なかったです」
「お嬢ちゃんはさやかちゃん?」
お巡りさんが名前を聞いている。女の子は頷いている。
「女の子が行方不明になったとの届け出があって、探しているところだった」
「子猫を追いかけていたら、迷子になったと言っていました」
「見つかってよかった。事故にも遭わずに済んで」
「お家に帰れるからよかったね」
「お兄ちゃんありがとう」
「さやか」という女の子はパトカーに乗って帰って行った。お巡りさんから学校名と名前を聞かれたので、泉野中学校1年、合田昌弘と答えた。
人騒がせな子猫だと思って、辺りを見回したが、もうどこにもいなかった。
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