1.さやかとの出会い―いつもみる不思議な夢

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ほんの一瞬のことで、気が付いたら女の子を抱きしめていた。女の子もその瞬間は何が起こったのか分からず、茫然としていたが、すぐに事故だと分かって泣き出した。 「危ないところだったね。お互い命拾いしたね」と女の子に話しかけた。泣きながら女の子は頷いて「お兄ちゃん。ありがとう」と言った。 衝突の音を聞きつけて大人が集まってきた。車の前の部分が大破している。運転手はエアバッグにもたれてぐったりしていて動かない。「誰か救急車を!」の声が聞こえる。 女の子と二人でじっとその様子を見ていた。すぐに立ち去るところだが、今回の事故を目の前で目撃して、誰かにそれを話さなくてはとの思いがあった。二人でそのまま立ち去ることなく、事故の現場を見ていた。 救急車のサイレンが近づいてくる。人だかりが大きくなってきた。救急車が到着した。それからお巡りさんが自転車で到着した。 救急隊の人が運転席の人に「大丈夫ですか?」と声をかけているが、反応がないようだ。担架で運んで救急車に乗せている。救急車がサイレンを鳴らして遠ざかる。 誰かが僕たち二人を指さしている。お巡りさんがこっちに来た。 「君たち、事故を見ていた?」 「はい、僕は見ていました。バス停あたりで方向を変えるところが、真っ直ぐに進んできて塀に衝突しました。この女の子と二人、ここで信号を待っていました。女の子は車を見ていません。僕が引き寄せて二人で避けました」 「二人とも怪我はないですか?」 「ありません」 「二人の名前と住所、電話番号を教えてもらってもいいかな?」 僕は住所と名前と電話番号をお巡りさんに話した。女の子は小学2年生のようで、住所と電話番号をしっかり話していた。寺町何丁目のなんとか「さやか」というのが聞こえた。 今でもそうだが、物覚えは良い方ではない。名前なども何回も聞かないと覚えられない。女の子の住所と苗字を聞いていたが、もう忘れている。ただ「さやか」という名前だけ覚えた。 それからしばらくして、騒ぎを聞きつけたのか、連絡を受けたのか、女の子の母親が来たようで「お母さん」と言って、さやかちゃんは走っていった。それを見届けると、お巡りさんに「もう、いいですか」と断ってその場を離れて自宅へ帰った。
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