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一年とちょっと前の梅雨に入りかけの頃。 その日は雨が降っていた。 たまたま傘を持ってきていた萌が生徒玄関で雨の中を走って行こうとする先輩を見かけた。 私が全校女子のアイドルになりつつある拓翔先輩を知ったのは、その少し前。 やっと修理の終わったクラリネットをもってブラスバンド部に顔を出したのが初めての顔合わせだった。その時はほとんど興味がなく一つ上の先輩という意識だけ。 「先輩待って!駅までなら入っていきませんか?」 先輩は私を振り返り、困ったような顔をしながらも「いいか?」と呟いた。 雨足は緩むどころか厳しく降りだし始めていた。 必然的に拓翔と私はくっついて歩くことになった。 「俺が傘持つから」 二人とも傘からはみ出た肩が随分濡れた。先輩は二人で持っていた傘を右手に持ち替え、空いた左手で私の体を引き寄せた。 先輩の行動に驚いた私は体勢を崩し、結果先輩の胸に飛び込む形になった。 慌てて離れようとしたけれど、逆に先輩の行く先を塞いでしまい、二人して傘の中で動けなくなってしまった。     
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