第1章 6月5日の雨の日

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「雨…、か。」 リビングのテレビからは、今日から梅雨に入ったという声が聞こえた。 いつも素敵なお天気お姉さんは、私にとってなんとも憂鬱な季節の始まりを告げたのだ。 というのも、私は梅雨がどうも好きになれない。 生まれつきくせ毛の私は、この季節になると髪が爆発してしまう。 私は元来見栄っ張りの性分のため、スタイリッシュな朝に憧れている。 ネスカフェのバリスタで入れたカフェラテを飲みながら、白金の有名なパン屋さんのクロワッサンを食べる。そして、お気に入りのガウンを脱いで素敵な出会いを運んできてくれそうな服を選ぶのだ。そこで仕上げに髪の毛をセットするのだが、この季節はここでつまづいてしまう。スムーズに朝のルーティーンが進まないせいで、朝から気分が沈んでしまうのだ。 そして、今も 「あー、やっぱりうまくいかない。」 そう言って、私は諦めて髪の毛を一つに結んだ。 ♪♪♪♪♪ そんな時、携帯がなった。 『はよ!洋ちゃん、今日の会議はあちらの都合で延期になった。だから、今日はいつも通りの時間に出勤して大丈夫だ。』 「そうですか。わざわざありがとうございます。」 『おう。じゃあ、また後で』 この電話の相手であった田中部長は、とても部下思いで部のみんなに慕われている。そして、私の婚約者の父親でもある。
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