第1章 6月5日の雨の日

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私の婚約者である田中千紘は、父である部長に似てとても優しい人だ。でも、部長と違うのは彼が容姿端麗であるということだ。そして、彼は大学時代に自分で設立したベンチャー企業の社長である。しかも、その会社は今もっとも注目されているベンチャーの一つだ。 そんなフィクションの世界から飛び出してきたみたいな彼と私の出会いは3年前の冬だった。どん底にいた私の前に颯爽と現れた王子様。 それが、最初の私の彼への印象だった。 「おはようございまーす。」 やっと会社に着いたと思いながら、自分の席に座った。 「おはよう、野崎!」 これは、私の同僚で向かいに座っている間宮あきだ。 彼女は大学からの友達で、なんの因縁か会社まで一緒だった。 「あきー、憂鬱が降ってるよー」 「野崎はこの季節が嫌いだもんね。」 「ほんっと、朝出勤するのもやっとだったよ。」 「はいはい。じゃあ、今日はシエラにランチに行こうか。」 「えっ!いいの!?」 シエラとは会社近くにある私とあきのお気に入りのおしゃれなレストランだ。 ランチもやっているのだか、値段が高いので社会人になってまだ2年しか経っていない私たちにとってはなかなか敷居が高いのだ。 「いいよー。だって、野崎と話したいことがあったし。」 「え、なんか怖いんだけど」 「たいしたことじゃないから気にしないで。」 「そういう風に言われるとさらに怖いんだけど。」 まあ、そんなことを話しながら私たちは仕事を始めたのだった。
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