第1章 6月5日の雨の日

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だからなのか、私の好奇心は止まらず 「なんていう名前の人だったの?その、私の元カレは。」 とあきに聞いた。 「キジマハヤオ。」 キジマハヤオ。 「その人は大学の知り合い?」 「違う。病院で知り合ったって言ってた。」 病院。 「そうなんだ。なんも思い出せないや。」 結局聞いたところで私にとってその元カレは架空の人物にしか感じなかった。 そんな私に、あきは悲しそうなでも安心したような顔をしながら 「そっか。でも、ごめん。うちが知ってるのはこれくらいかな。具体的に二人が付き合ってた時のことは知らないんだ。」 と言った。 「でも、さっき辛い恋だったって。」 「それは、その時野崎が元気ないことが多かったからだよ。」 「そうなんだ。」 「うん。だから、気にしなくていいよ元彼のことは。」 「う…ん。」 何も知らない。思い出せない。それでも、あきの言葉に違和感を覚える。 ”辛くなんてなかった。” そう心が叫んでいる。 頭と心が離れていく。 それからたわいも無い話をして、午後の仕事についた。 それでも私はあの元カレの話が何故か気になったまんまだった。 記憶にないかつての恋人。 こんなドラマの定番みたいな話が自分に該当していたことが驚きだ。 昔の恋人なんて、もう関係が終わった他人の事なんて、知っても意味がないのにどうして知りたがるんだろうと、一視聴者として思ってたのに。 ”キニナル” そんなこんなで定時近くになり、私の携帯に千紘さんからメッセージが届いた。 『今日、早く仕事が終わったから迎えにいく』 今までの夢見ごごちだった気分から一気に現実に引き戻された気がした。 私には優しい恋人がいるんだ。 とっても素敵な王子様みたいな人が。
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