第Ⅳ部 栄誉の代償

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 従者の強力な魔術に疑念を抱いたマルクが尋ねると、自分が博士の呼び出した悪魔メフィスト・フェレスであることを白状し、「あらゆる富と栄誉を与える代わりに、心から満足いく悦びを得た時、博士の魂をもらいうける」という契約を交わしていることを告げる(※命の取引をして契約した悪魔は、そうでない場合よりも強力な力を与えてくれる)。  だが、一向に博士の欲望は満足することなく、メフィストの目的も遂げられないのだという。  そして、一行はついに目的地であるミッデラ海(※地中海的な海)の港湾都市ウェヌーザへたどり着くが、そこを〝ガリガリー〟と呼ばれるアスラーマ人海賊のババロワッサンが襲う。  戦闘に巻き込まれるマルク達だったが、メフィストや『魔術のアルバデル』でオリンピアの霊を呼び出したマルクらの活躍もあって、ババロワッサンの海賊船団を壊滅させる。  その活躍に一行を称賛するウェヌーザ市民達。  気を良くしたファウスト博士は、さらにメフィストの力でウェヌーザ市の執政官(※市の行政を担う最高位の官職)に任命してもらい、ちょうど進行中であった海賊対策の要塞を築くための干拓事業も、やはりメフィストの力をもって一瞬で成し遂げてしまう。  ますます大きな称賛の声をファウストに送る市民達。  その歓声の中、彼はこれまでに経験したことのない大変満足のいく悦びを得る。と、同時に、契約通り、博士は魂をメフィストに奪われ、その生涯に幕を閉じる。  強欲で独善的な性格であり、そのために大学も追われたファウスト博士は、みんなに自分という存在を認めてほしかったのだ。  目的を遂げながらも「これまでは欲望を満たせなかったのに、なぜ博士は満足したのか?」と訝しがるメフィストに、「人間、一番強い欲望は〝他者承認欲求〟ってことかな…」とマルクは語り、人間という存在についてしみじみ思いをはせながら、また、悪魔と契約することの恐ろしさを改めて肝に銘じながら、新天地への帰路につくのだった。
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