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右手で始まりの鐘の音を奏でる。
オクターブで呼応する音は、二つの鐘が交互に鳴っているかのような印象を与える。
遠く近く。
そしてそれらはやがて細かな音の波となって空気を震わせる。
儚くて切ないような旋律が連続して現れ、問いかける。
荒波のような心を諫める術があるの? とでも言うように。
それに答えを与えるように、やがて力強さを伴った旋律が現れる。
怒りをぶちまけるように、半ば強引にそこを弾いていく。
佐伯の顔が思い浮かぶ。
あの、ニヤリと笑った得意そうな顔。
あぁダメだ。イラっとする。
短調から長調を奏でたかと思えば、再び短調へと戻っていきながら、強さがどんどん増す。
勢いが止まらない。
指先は、感情に正直だ。
再び最初の旋律に戻ろうと、曲はだんだんと収まっていくはずなのに、しまった。
失敗したかも。
小さく舌打ちをしながら、指先は自分の暴走を無理やり食い止めるかのように少しぎこちなく収束していった。
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