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第一音楽室の扉をガラッと開け、グランドピアノのところへ真っ直ぐに向かった。
イライラしたときは弾いて解消するのが一番手っ取り早い。
もうお決まりになってきた、リストの『ラ・カンパネラ』。
絶技巧練習曲集に収められているだけあって高度な技巧が連続するこの曲。
それをノーミスで弾ききるという小さなプレッシャーを自分にかけ、私は怒りをまき散らしながら勢いよくピアノ椅子に腰を下ろした。
はぁっと深く息を吐き出す。
ええい、佐伯め! と心の中で叫んでから、目を閉じた。
両手を組んで10秒ほど頭をもたげる。
明日からテスト期間だから、今日の吹奏楽部の練習はない。
練習室も、さすがに今日は誰もいないようだ。
楽器の音はどこからも聞えてはこない。
よし、と小さく呟くと、私はゆっくりと目を開けて両手を鍵盤に置いた。
深く息を吸い込むと同時に、その音の世界を私は全身で歌い出す。
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