第6話 カニカニドコカニ

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第6話 カニカニドコカニ

「前話ではスルーしちゃったのだけど」 「なんだ、硯?」 「カニカニドコカニってなによ?」 「問題になりそうだからスルーで」 「問題になりそうなことを言うな!!」 「いや、だって、ここはカニだけに、カニカニドコカニ?」 「あんたの言ってることがちっとも分からない」 「ファミコンゲームがクリアできなかった鬱屈が集まってできたカニなノヨ」 「なんであんたが知ってるの?」 「ときどき捕まえて食べてたノヨ」 「おいおい、あれ、食えるのか?」」 「結構おいしかったノヨ。あたしは肉食だから」 「さっきはトーストにコーヒーを飲んでたけどね」 「あれはあれでおいしいノヨ。また行こうね」 「セキヒのおごりなら行ってもいいよ」 「こらこら。俺のポイントにたかるな。それより、カニカニドコカニのたくさんいる池に移動するぞ。硯はカニを捕まえるのは得意か?」 「得意もなにも、やったことないよ」 「そうか。まあ、なにごとも慣れだ。木を引っこ抜くようにはいかんだろうが、俺がやった通りにマネすればいい」 「うん、教えてね」  と偉そうにカニの捕まえかたをレクチャーしたセキヒであったが。 「硯、ここにいるノヨ」 「よっしゃー。そぉっと手を差し入れてと……むぎゅっと捕まえた!」 「え?」 「硯、ここの岩の下にも3匹いるノヨ」 「ほいほい。そーっと手を……めんどくさい、どばぼっっと手を突っ込んでわさわさわさえいっ!! あ、4匹でてきた」 「ええ?!」 「硯、大丈夫か。手を挟まれたりしてないか?」 「大丈夫だよ。だってこんなに小さいし柔らかいし。ぽにぽに」 「そ、それが、柔らかいって……」 「ほとんど、カニというよりもヤマトヌマエビね。うちで飼ってたことあるよ」 「こ、こんな凶暴なカニを、そんな簡単に……」 「この子が見つけてくれたから、楽だった。ありがとね、サイゾウ」 「うん。硯すごい。あんな簡単に捕まえちゃうなんて」 「ほら、ご褒美に1匹上げる。食べていいよ」 「ありがとぱくっ。ぼりぼりぼり。おいしい!」 「ああっ、せっかく捕まえたの食べちゃったらポイントが!」 「まあ、1匹ぐらいいいでしょ。もう100匹近く獲ったから、そろそろバケツに一杯よ。これ。役場に持っていくんだっけ?」 「あ、ああ。役場に持っていってポイントと交換だけど。俺はまだ2匹しか」 「手伝っちゃダメなんだよね?」 「そう。手伝ってもらったら俺のポイントにも修行にもならない……」 「が、がんば」 「あたしが探すのは手伝ってあげるノヨ?」 「あ、ああ。そのぐらいなら大丈夫だろう。イタチ、頼めるか」 「つーん」 「あれ? どうした?」 「名前を呼んであげないからすねたのよ」 「その名前気に入ってなかったんじゃ?」 「気に入ってなんか、いないノヨ」 「イタチ?」 「つーん」 「サイゾウ?」 「なにノヨ?」 「気に入ってんじゃねぇか!」 「あ、その石の下にいるノヨ?」 「だってさ。セキヒ、獲っていいよ?」 「あ、ああ。そうさせてもらおうか。そのイタチにそんな便利な機能があるとは知らなかったなぁ。知っていればもっと楽にぎゃぁぁぁぁ」 「アメリカザリガニが」 「先に言え!!! いてててて、挟まれた、痛いっ」 「また選りに選ってでっかいやつね「 「いてててて。ふーふー。あぁ、挟まれた跡がついちゃったじゃないか、いたたたた」 「ふぅん」 「なんだ、硯?」 「挟まれると、ちゃんと凹むんだね。そして痛いんだ」 「俺をいったいなんだと思ってんだよ」 「いや、セキヒだけに、もっと固いのかなって」 「俺は人型だからな。ちゃんと皮膚もあるし、骨だって……おい、なにをする。触るなよ、くすぐったいだろ」 「ぷにぷにぷに。おぉ。アジャとはまた違った感触のぷにがあるじゃないの。早く言ってよ。これはちょっとクセになるぷにね、ぷにぷに」 「や、やめ、やめろ! 俺にほっぺたは妖怪ウォッチぷにぷにじゃねぇよ」 「まあまあ、ちょっとだけだからぷにぷに」 「ちょっとでもダメ……こらっ。お前は耳を引っ張るな!」 「引っ張ってるのはサイゾウよ。私はぷにぷにしてるだけ。うん、これはいいぷにだ。博物館に飾っておきたいぐらいぷに」 「サ、サイゾウも止めろ! 硯はもっと止めろ!!」 「よし、今日のところはこのくらいにしといたろ」 「しといたろじゃねぇよ。あぁ、くすぐったかった……あれ? いまなんか気になること言ったな?」 「気になること?」 「そのアジャとかって人だか仏だかにも、こんなことしたのか?」 「うん、もちろんしたよ。アジャのはもっとなんていうか寒天? みたいな感じだった。あんたのはプリンだねあははは」 「あははじゃねぇよ。どう違うのか全然分からんけど、それよりカニカニドコカニはずいぶん獲れたようだな」 「えっと、バケツに半分は入ってるね。100匹だとしたらポイントはどのくらい?」 「ひゃ……百匹かぁ。たぶん200ポイントぐらいにはなると思う。俺の1月分よりも多い……」 「そ、そう。セキヒはいちいち落ち込まないの! 私が悪いことしてるみたいじゃない」 「いや、それは悪かった。しかし目の前でそんなにどんどん獲られるとな。俺なんかまだ2匹なのに」 「アメリカザリガニが1匹いるノヨ」 「それは数に入れてねぇよ! 欲しけりゃやるから食べな」 「うん、ありがとう。ばくっ! もぐもぐもぐ」 「あんたはなんでも食べるのね」 「雑食なノヨもぐもぐ」 「味覚音痴ボソッ」 「むごむごごごごご」 「ザリガニを加えたまま苦情を言うな。じゃあ、獲ったものを役所に運んでポイントを確定しよう」  そしてセキヒの案内で、私はバケツを持ってのたのたと歩いて行く。そして途中で見つけたものをパクパクと食べる。 「ほら、これがナワシロイチゴな」 「ぱくぱく」 「これが桑の実だ」 「ひょいぱく、ひょいぱく。ひょいぺちゃ。あ、潰れた」 「柔らかいからそうっと持ったほうがいいな」 「で、これがドングリ」 「スルー」 「スルーするなよ!」 「そんなもの面白がる子供じゃないっ」 「面白がるんじゃなくて、食べるんだよ」 「あんなもの食べ物じゃないでしょうが。それともこっちにだけ生えてる特別なやつ?」 「いや、お前の世界にも普通にあったドングリだぞ。これ、食べられるのに知らないのか?」 「イチゴなら食べてあげるけど、ドングリはいらない」 「おいしいノヨ、ぽりぽり」 「あんたはなんでも食べるのね。好きなだけおあがり」 「ぽりぽりぽりぽり、おいしいおいしい」 「ふぅん。念のために聞いておくけどどんな味?」 「興味津々のようだが」 「ち、違うわよ。念のためよ、念のため」 「どんな念だよ。クリに良くにた味だぞ」 「うんうん。ほんと、そんな感じなノヨぽりぽり」 「え? ドングリじゃなくて、クリの味? そんなバカな」 「ほら、硯も食べてみるノヨ」 「う、うん、ありがとう。皮を剥いてくれたのね。じー」 「穴の開くほど見つけても味は分からんぞ」 「うぅうう。えいっ、かりっ」 「どう?」 「あれ、なんかおいしい。意外、ドングリの味じゃない」 「ドングリの味ってなんだよ。こいつはシイの実だ。普通に食べられるだろ?」 「食べられるね。そんなドングリってあるのかぽりぽり。飽食の時代に生きてると意外なことを知らないのねぽりぽり。だけどこっちの世界だけのものと、あちらにもあるものとをどうやって見分ければいいの?」  写し世は物質世界ではない。人々の想いによって生まれた世界である。そうした想いが溜まってこの世界に生まれるのである。  ただし、一般的な動植物も存在する。ここにはウルシも生えているしノイチゴも豊富にある。サワガニもいるしアメリカザリガニも存在しているのだ。  しかし、現世のものとこの世界だけのものとを見分けることは、住人なら簡単なことであるが硯には難しいことである。  教えてもらわねければ、カニカニドコカニとヤマトヌマエビの区別もつかないのである。 「俺も最初は知らなかった。だんだん覚えてゆくしかないだろう。まあ、俺といればそのぐらいは教えるから、困ることはないと思うが」 「そっか。じゃ、頼りにしてまっせ、セキヒ」 「あ、ああ。俺よりはるかに高い修法力を持つ硯に教えるってのは、なんか変な感じだけどな」 「まあまあ、そんなことは気にせずに。私を楽しませてくれればいいから」 「楽しむのかよ!」
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