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願いが叶ったあの夜、ここに来る前に少しだけ住んでいた大きな屋敷の中庭から、今日のように1人で月を見上げていた。 嬉しさと不安とが入り交じった気持ちが、あの夜の月の姿を僕の中に残した。 今でもときどきあの頃のことを思い出す。 こんな風に1人になった夜は、特に。 『矢野医院』と書かれた看板が、やんわりとした月明かりに照らされて行く手の先で白く輝いていた。 病院の明かりはもう消えている。 いつも通りの夜だ。
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