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『矢野』になったことで、すべてが変わった。
こっちに越してきてからは『矢野医院の一人息子』と呼ばれるようにもなった。
住む場所も、生活も、何もかもが一変した。
子ども心に、生まれ変わったような気がした。
でも、今日1つわかったことがある。
過去は消せないのだということ。
あの女に殴られて、虐待の記憶の片鱗が一瞬心の中によみがえった。
顔も覚えていない生みの親の記憶がそれだなんて最悪だけど、でも確かに気づいてしまったのだから仕方ない。
できれば、思い出したくなかった。
逃れられないとしても、蓋をしておきたかった。
くそっ。あいつめ――
スカートをはためかせたあの女の映像が脳裏に浮かぶ。
何なんだ、あの女は。
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