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「わ、あの人イケメンオーラ出てる!友永君、ゆっくり走って!顔が見たい!」
営業車の助手席で同僚の三島が声を上げた。
なんだそりゃと思ったが相手の方が先輩なので無視するわけにもいかない。
スピードを落として、ターゲットと思しき人影へ目をやる。
左前方にガードレールの無い白線だけで区切られた歩道をゆっくり、ぷらぷらといった感じで歩くスラリとした男。
地方都市郊外の畑と住宅が混在するエリアには似つかわしくない垢抜けた服装と洒落たハットの下から覗く長めの髪。
「ちょっと芸能人みたいじゃない?ああ、どうか顔もイケてますように!」
サイドガラスに額を擦り付けんばかりに張り付いて、チャンスを逃すまいとする三島の横で、友永はゴクリと喉を鳴らしていた。
似ている。
だが、まさか。
「わー、やっぱりイケメンだった!眼福眼福!」
はしゃぐ三島の声を聞きながらその男の横を通り過ぎる。
「この辺の人かしら?ああいうお客さんだったら気分もあがるのになあ。やっぱり東京で就職したかったー。ねえ、東京にはああいうイケてる人いっぱいるんでしょ?」
「ああ、まあここら辺とは違いますかね」
うわの空で適当に相槌を打ちながら、友永の目はサイドミラーをきつく睨んでいた。
純だ。
あれは確かに純だった。
胃から胃液がせりあがって来たような苦みを感じ、不快感に思わず顔が歪む。
「あ、大丈夫、大丈夫。友永君も素材悪くないし、東京の大学行ってただけあって会社のおじさん達に比べりゃずっと洒落てるよ」
三島が横で何か言っていたが、頭に入ってこなかった。
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