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目覚めが良くいつも俺より早く起きる純太が、今朝はすーすーと寝息を立てながら眠りこけている。さすがに昨夜は無理をさせ過ぎたか。
起こさぬようにベッドを抜け出し、ダイニングで目覚ましのコーヒーを淹れる。
コポコポと音を立てるコーヒーマシンの傍で朝飯のメニューを考えていたら、スマホがメッセージを受信した。
品川からだった。
純太は術後、品川の事を忘れてしまった。
手術の後遺症は最小限で済んだが、やはりしばらくは記憶の欠落に純太はしばしば戸惑った。混乱に拍車をかけぬよう、俺は無理にそこを元通りにさせようとはしなかった。まず、仕事に復帰して日常生活をつつがなく送ることに俺たちが重点をおいたからだ。
だから、品川とは俺が連絡を取り合っている。
昨日の経過報告も知らせておいたので、それに対しての返信がきたのだろう。
だがアプリを開いて、俺は思わず「おお」と声をあげた。
純太の良好な経過を喜ぶコメントの後に、「とうとう結婚することになりました」とあったからだ。最後ににこやかに微笑む品川と婚約者の写真も添えられていた。
純太の同志であった知世さんが亡くなって、来年で10年になる。
品川もようやく新しいスタートを切ったのだな。きっと知世さんだって、天国で祝福しているに違いない。
無性に純太の顔が見たくなってベッドルームに戻る。
気配を感じたのか眠りが浅くなってきたのか、目をつぶったまま純太の手がシーツの上を滑り隣にいるはずの俺を探している。
今日は俺がお返しをしてやろう。
純太の髪を優しく撫で、額にキスを落とす。
耳元に唇を寄せ、囁いた。
「愛してるよ」
< 完 >
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