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幸い来たれり
初夏の木曜、民家もまばらなある村にさいわい来たれりと笛を吹くものがあった。
人の往来めずらしい村で聞き慣れない声だったので家人たちはその姿を見ようと戸を開けたがすでに去ったあとであった。
この村の郵便局に勤めているカワイ家の夫人もそれを聞いた一人であったが、
突然大きなプアーという音が窓のすぐそばで鳴ったため、うららかな陽気で午睡にまどろんでいた夫人は
背中を叩かれたように飛び上がったすえに足の指を打ってしまった。
ほどなくして夫妻の子どもたち、カズコとマサミが帰ってきたので今日あった話を聞くと
学校におかしな人物が来たという。
昼休みのあとの誰もいない校庭をぐるぐると歩き回り、校舎に向かって笛をプアーとやると
さーいーわーいーきーたーれーりぃー
男とも女ともつかぬ甲高い声をあげると、そのまま裏門から出ていった。
「なにいまの」「びっくりしたー」
おびえ半分、笑い半分、教室がざわざわしはじめる。
窓際の生徒が席を立ったのを皮切りに、カズコたちも我先にと窓から校庭を覗き込んだ。
笛吹き男の姿はすでになかったが、他の教室の窓から身を乗り出した生徒たちと目が合って
お互い気恥ずかしそうに微笑みをかわした。
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