第三話 とある噂

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第三話 とある噂

 その日の放課後、瀬名に関する妙な噂を聞かされた。 「聞いたか、邦雄。瀬名の奴、二股かけているんだってな」  普段はろくに口をきいたことがないクラスメートの久堅茂雄(ひさかた しげお)が帰る準備をしていた俺を捕まえて、顔をにやつかせながらそんな事を言ってきた。 「……え?」  友人の八丁堀瀬名には恋人がいる。  俺は紹介してもらった事がないし、妹の八丁堀姫子にも会わせた事がなく、どのような人物なのか謎めいているのだ。  名前もまだ教えてもらってはいないので、架空の人物なのではないかと思ったりもする。だが、妹の姫子が瀬名に恋人の匂いが染みついていて嫌だと言っていた事があるので、非現実ではなく実在しており、付き合っている事も確実なようだ。  だが、二股という話は瀬名からも姫子からも聞いた事がない。恋多き男ではなく、どちらかと言えば、一途な気がしたんだが。 「二股かけている相手にも男がいてさ、そいつと揉めているって噂だぜ」 「誰と付き合っているのか知っているのか?」  久堅が知っているとは想定外だな。  こいつはそういったのに興味がないというか、他人に興味がなさそうな男なのに。     
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