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「ファーストクラスだとハニーと離れ離れの席になってしまう」
「はっ?」
カプセルホテル状態だから、一人分の席が独立していて少し距離がある。一席分くらいの通路すら惜しんで、彼は俺の手を取った。
「やっぱりビジネスクラスにすべきだった」
心底ガッカリした調子で言う。ファーストクラスにこれほどガッカリする奴、世界のどこを探したっていないだろう。
「少しの間だろ、我慢しろよ」
本当に俺にベタベタで仕方がない。親から離れない乳飲み子みたいだった。
「次はビジネスクラスにするから」
「わかった。もう変えようないから今は我慢しろ」
「もちろんさ、今は我慢する」
「そうだ、我慢しろ。少し離れてみるのもいいもんだぞ」
「お前とはもう離れたくないんだ、あのときホテルで出会って別荘で再会するまで、どれだけ長い時間だったことか」
なんとなく目頭を熱くしているのを感じて、軽く叱りつける。
「泣くんじゃねぇよー、バカが」
「あとでな、あとでハニー」
初めて見た、ファーストクラスで泣きそうになってる奴。さすがに旦那とはいえ引くわ。
飛び立つ時になってようやく手を離した彼と再会したのは、日本を飛び立って12時間後のことだった。
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