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荷物を詰め込んだキャリーケースを2つ受け取る。2人だけの身軽な旅行とはいかないのは、彼が彼であり続けるなら仕方がないことだった。
「ここから迎えが出ている。向こうが手配してくれているそうだ」
一般の人とは違う送迎ゲートまで航空会社のスーツのおじさんが送ってくれて、外に出ると同時に別のスーツのおじさんにバトンタッチされる。この間、俺たちが動くと同時に数人のスーツの大人が一緒に動いた。
外は外で、古代ローマを思わせるような太い柱のエントランスになっていて、とりあえず裏口から出入りさせられる日本の空港とは別世界だった。
「お待ちしておりました、ご宿泊先までご案内いたします」
険しい顔をしたSPみたいな背の高い男が、お祝いムードも何もなく言う。後ろには黒光りするリムジン、贅沢な話だけど見慣れたものだった。
「ああ、ありがとう。君は首相付きの警護だな」
彼が胸元を見ながら言う。仕事してるときみたいなキリッとした落ち着いた話し方で。男は軽く頷いて、リムジンのドアを開いた。スーツケースを預ける、流れ作業みたいにスムーズにリムジンに乗り込む。
「なんで首相付きの警護ってわかったの?」
リムジンのドアが閉まったと同時に、隣に腰かけた彼に尋ねると、さっき警護に喋ったのと全く違う穏やかな笑顔を見せた。
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