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「胸のところのバッヂさ。彼が身につけていたのは、首相付きの警護にしか身に付けることが許されないバッヂなんだ」
自分のスーツの襟辺りを、親指でトントンとさしながらいう。
「バッヂ?」
そんな特殊なものに見えなかったけど。ただの丸っこいバッヂに見えた。
「首相以外の警備にまわる際に、目印のためにあのバッヂをつけることを義務付けられている。一般には出回っていない情報さ、出回ったら困るだろう。だから限られた人間しか知らない。俺は見慣れているからな」
「へぇ。じゃあ俺なんかが知るわけねぇな」
「ハニーもこれから嫌でも見慣れるようになると思うぞ」
まぁ庶民の俺みたいなのが、バッヂなんかいちいち気にしたことなんかないからな。彼と生きていくのなら、少しずつそういうことにも気をつけていかないとならないか。
彼との立場の違いを改めて感じたところで、リムジンが動き出す。
「お、動いたな」
そういえば行き場所すら知らなかった。
旅のしおりもあるわけじゃないし、完全に彼におんぶに抱っこの旅。
「どこ行くの?」
ざっくりと尋ねる。彼は俺の腰に手を回しながらネクタイを緩めた。
「宿泊先のホテルに行く。ホテルというか、城らしいが」
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