569人が本棚に入れています
本棚に追加
時刻は午後2時半を少し回ったところ。
暑くもなく過ごしやすい気候で、とてもよく晴れていた。昼下がりの穏やかな空気の中、1時間ほど車に揺られて、少しうとうとしてきた。
「っ、やべ、寝ちゃう」
顔をペタペタと叩く。手で頬に触れていると、隣ですっかりくつろいでいる彼に笑われた。
「長旅だったから疲れたんだろう」
どこかでも言われたなその言葉。
「でも、飛行機の中で結構寝てきたんだぞ」
「寝足りなかったんじゃないか、俺がそばにいなかったから」
「そーかもな」
正直それはあると思う。口には出さないけど。
「だが、今眠ってしまうのは得策ではない。もうすぐ城に着くからな」
そういう彼の口調が穏やかで、余計に眠くなる気がした。
「もう着くんだ?」
「ああ、そろそろな。見てみろ、綺麗な街並みだろう。この街並みの中心地に城がある」
窓の外を指差した。ぽかっと浮かんでるクリームパンみたいな形の雲が、中世の佇まいを残す石造りの街の真上に浮かんでいる。思えば首相の同性愛告白のニュースでしか意識したことない国だったけれど、穏やかで優しい印象を覚えた。
腰に回されていた彼の手に、少し力が入る。
「だから、今夜、ゆっくり眠ろう」
意味深に囁きながら。
最初のコメントを投稿しよう!