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「さぞゆっくり寝させてくれるんだろうな」
ほっぺたへの軽いキスとともに言う。
「まあ保証はできないが」
「だろうな」
お互いに笑いながら言うから仕方がない。目覚ましも兼ねて、遊びみたいに触れ合うキスを何度か繰り返すうちに、車が止まった。少し深く入ってきそうだった彼の舌も動きが止まる。
唇を離すとほとんど同時に、車のドアが開いた。
「ようこそお越しくださいました」
燕尾服のいかにも執事って感じの男が、白い手袋でドアの開いた向こう側をさす。寸分の狂いなくぴたりとつけられたドアの真下には、赤絨毯が続いている。白手袋のさす方に。
「このままお進みください」
赤絨毯にあっけにとられる俺とは対象的に、彼は淡々とその指示に従う。
「ハニー、手を」
先に車を降りて、俺に手を差し伸べてくる。そっと手を置くと、スムーズにエスコートしてくれる。
降りてからも呆然とした。
エントランスは白っぽいベージュの石造りで、太い柱が支えている。その柱にも細かい彫刻が施されていて、動物や木が結構リアルに彫られている。
奥に扉がある。5メートルくらいある大きな観音開きの木の扉。赤絨毯はそこまで続いていた。両脇に、腕章をつけた黒服の兵隊の整列を伴って。
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