雨傘のない雨の日

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「で、あんた、なんかあったの?」 大通りに差し掛かったところで、お姉さんの声がした。 「なんか、って?」 「ん、いやだって、不景気な顔してたから」 「不景気、ですか……」 どんな顔だろう? 「傘忘れた、以外にもなんかあるなって感じの、くっらい顔してたよ」 うわ、この人察しがいい。 「今日は財布忘れたり、朝から親とけんかになったり」 進路のことで。母の仕事が忙しくなって、それなのに祖父の入院も重なって、家の空気はピリピリしている。 あと、行きに車に水をかけられたり、教科書を忘れて怒られたり。 それから、大会前に怪我をしてしまったバスケ部の友達に、なんて声をかけたらいいのかわからなかったり。だって、僕にはバスケのことなんて、なにもわからないし。 で、傘を忘れた。 「とにかく、ついてなかったし、嫌なことも多かったんです」 あっちにもこっちにも、傘をさした人がいる。その中で雨ざらしになっている、僕。 「そりゃあ災難だったね」 お姉さんはカラカラと笑った。 深刻な顔はしない。同情もしない。かといって、全く無関心な風にも見えない。 「あんたさ、雨って何を連想する?」 唐突なお姉さんの問い。
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