0人が本棚に入れています
本棚に追加
「で、あんた、なんかあったの?」
大通りに差し掛かったところで、お姉さんの声がした。
「なんか、って?」
「ん、いやだって、不景気な顔してたから」
「不景気、ですか……」
どんな顔だろう?
「傘忘れた、以外にもなんかあるなって感じの、くっらい顔してたよ」
うわ、この人察しがいい。
「今日は財布忘れたり、朝から親とけんかになったり」
進路のことで。母の仕事が忙しくなって、それなのに祖父の入院も重なって、家の空気はピリピリしている。
あと、行きに車に水をかけられたり、教科書を忘れて怒られたり。
それから、大会前に怪我をしてしまったバスケ部の友達に、なんて声をかけたらいいのかわからなかったり。だって、僕にはバスケのことなんて、なにもわからないし。
で、傘を忘れた。
「とにかく、ついてなかったし、嫌なことも多かったんです」
あっちにもこっちにも、傘をさした人がいる。その中で雨ざらしになっている、僕。
「そりゃあ災難だったね」
お姉さんはカラカラと笑った。
深刻な顔はしない。同情もしない。かといって、全く無関心な風にも見えない。
「あんたさ、雨って何を連想する?」
唐突なお姉さんの問い。
最初のコメントを投稿しよう!