雨傘のない雨の日

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ふわりと声が降ってきた。 「誰だって雨ざらし。別に、恥ずかしくもないし、自分だけでもねーよ。それはあんたが、あんたにとって大事なもんで、両手がふさがってるってだけなんだから」 雨ざらし。嫌なこととか、辛いこととか。 でも、こうして一緒にぬれてくれる人がいる。 土砂降りなら、きっと、傘に入れてくれる人がいる。 僕もきっと、傘をさしだす。 ちょっとだけ、笑っていた。 「詩人ですね」 もっと言いたいことはあるのに、僕にはこんな言葉しかうかばない。 「あたしは小説家だ」 思わず顔をあげる。ちょっとムッとしたお姉さんと目が合った。 「あたしは小説家だ。詩人じゃない」 一瞬呆けて、でも、それが、お姉さんの仕事を当てるクイズの答えだと気づく。 まるで思ってもみなかった答え。 でも、なんだか納得した。 「なんとなく、ぽいですね」 気づいたら大通りから一本、道を入っていた。チラチラとマンションが見える。帰る場所。
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