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一つ小さく息を吐き出すとユリは、
「そうだったの?なぁんだ。結局、どんなに頑張ったって私はあんたの女にはなれないってことか。てゆーかさ、そもそも高2の夏休みに私が告ったらあんたが言ったのよ。お前が女だったら良かったのにって。だから私…」
ユリは少し寂しげな表情の中にもどこか遠い昔を懐かしむような目をした。
一瞬とも永遠とも感じる静けさが保とユリの間に線を引いた瞬間だった。
「ーーーごめん。」
保が漸く吐き出した言葉にユリはいたって明るい声で返した。
「ちょっと、やめて。謝んないでよ。しかもマジなトーンだし。そんな風にされたら尚更、やりきれないじゃん。」
「…ごめん。あっ…えっと、」
目の前で動揺する保の姿は高校の頃と変わらないなとユリは思った。
「ほら、またぁ。まぁ、でも仕方ないか。結局さ、どこまでやったって私はーーーニセモノなんだろね。」
自分に言い聞かせる様に呟くユリに保は声を大きくして言った。
「ニセモノって……そんな寂しいこというなよ!俺は男も女もなく人として、そう人としてお前の事が好きだ。むしろ男女の好きよりもそれは俺にとって尊いもので、何よりも大切で壊したくないものなんだ。俺の言ってることわかるか?」
一気にまくしたてるように言う保の言葉をユリは胸を熱くしながら聞いていた。そして、
「…わかるよ。」
と、一言言うのがやっとだった。
「俺にとってお前は唯一無二の存在だ。それに対して男も女もねぇよ。」
「保…」
「だからこそ…、だからこそ俺は今、お前を一人で行かせる訳には行かないんだ。」
「保……ありがと。そうね、ある意味男女の関係を超越してるって最高なことかもね。」
ユリがそっと保に近づくと二人は自然に抱き合った。
そしてーーー
ドスッと鈍い音がフロアに響く。
「うっ……ぅぅ……お前……」
保はその場にドサリと崩れ落ちた。
「悪い、保。こうするしかないんだ。やっぱり保を巻き込むわけにはいかない。」
急所に一発入れられ気を失っている保を気にしながらもユリは既に到着していたエレベーターに乗り込んだ。
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