言えない…

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21xx年、日本 言葉の乱れにより起こりうるトラブルや犯罪を未然に防ぐため、新しく【ことば憲法】なるものを作ることになった。ただちに国会にてその法案は満場一致で可決され、これより汚ならしい言葉、攻撃力のある言葉、その他、暴言とみなされる言葉、全てを公共の場で使用することを固く禁ずる。 それらは専門機関である【ことば警察】のもと、徹底して取り締まられ、逮捕者に関しては、AIを搭載する裁判官ロボットが開く【ことば裁判】により刑を決定される。 何れもーーー 絶対服従である。 「ねぇ、ねぇ?大体の話は分かったんだけど、そもそもなんでこんなことになってんのよ?」 磯崎友理(いそざきゆり)はラージサイズのマイナスコークを飲みながらWサイズのポテトを頬張り、数年ぶりに再会した藤本保(ふじもとたもつ)に聞いた。 ちなみにマイナスコークとは最近某大手バーガーショップにて発売された炭酸飲料で、飲むと一緒に食べたもののカロリーを消費してくれるという優れもの。そしてポテトのWサイズとは単に一本の幅が二倍になっており、実に腹持ちが良く、またその食べごたえある食感も人気となっていて発売以来不動の人気メニューとなっている。ただし、そのカロリーたるや… マイナスコークを合わせて飲むことでWサイズのポテトのカロリーをいくらか消費しているもののプラスマイナスゼロになっているのかどうかはさだかではない。 そのWサイズのポテトをほいほいと口へ運ぶユリに圧倒されつつ藤本保は言葉を返した。 とても慎重に。 「なんでって……そりゃお前、じゃなくて、えっと、あ、いや、き、君だよ、そう君がさ…」 「はあ?ちょっと止めてよ。君とかってなんなのよ。今まで私の事そんな風に呼んだことなんて一度もないじゃない。急にそんな風に呼ばれても寒気がして落ち着かないわよ。」 ユリは隣に座る保の少し猫背気味の背中をバンバンと叩きながら言った。 「あいたたた……だから、こういうバーガーショップとかでも乱れたことばを使うとダメなんだよ。いつでもどこでも俺たちの言動は取り締まりロボットに監視されている。」 と、保はユリの耳元で蚊の泣くような小さな声で言った。 「そうなの?」 自然とユリも保に顔を近づけ小声になる。 「確か、ユリが会社の転勤で火星に行ったのがちょうど五年前だっけ?そのあとすぐだよ。この国の法律が劇的に変わったの。後はあっという間にこんなだよ。」 と、店の中央に鎮座する監視ロボットに目線をさり気なく送る(たもつ)。 保が促した視線の先をユリも追うと確かに店内にいる人間たちを監視するロボットが(せわ)しく首を360度クルクルと回転させていた。 「とにかくさ、ここじゃ色々と話したいこともなかなか話せないし、よかったら…もしこの後、予定とかなければだけど…久しぶりに来る?俺んちに。」 何故かモジモジと言いにくそうに家へと誘う保にユリはこの後の展開を想像する。そして、保がおそらく求めているであろうことを簡単に推測すると快く返事した。 「えっ、保んち?うん、確かに久しぶりだね。じゃあ、お邪魔しようかな。」 保とユリはそう決めると残りのマイナスコークとwサイズのポテトを急いで頬張りトレイを持ち席を立った。
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