言えない…

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「はい、これで今回も俺の勝ち。見ろ、全部真っ黒だ。」 そう言いながら(たもつ)はバーチャルオセロのスイッチを切った。その途端、空中に映し出されていた画面がプツリと消える。 「もう、保ってば、学生の頃から勉強は私より出来なかった癖にオセロだけは強いよね。……少しくらい負けてくれてもいいじゃん。」 と、言いながらユリは唇を尖らせてみる。 「勉強は出来ないってお前なぁ…まぁ、その通りだけどさ。て言うかなに言ってんの?少しくらい負けてくれてもって、お前そういうの一番嫌いだろ?わざと負けたってどうせめちゃくちゃ怒るだけじゃん。」 「まぁ…確かにね。正義感だけは人一倍強いって言い切れる。だからさ、私、ちょっと考えがあるんだけどーー」 なにやら思いついた顔のユリに全力で話を止める(たもつ)。 「ダメダメダメダメ、止めとけって。」 「何よ。まだ何も言ってないじゃん。」 「言わなくてもわかる。」 「なにそれ、超能力者にでもなったつもり?」 「バカ、お前と俺、どれだけ昔からの付き合いだと思ってんだよ。わかるっての。それよりもマジでこの国はお前がいた五年前とすっかり変わっちまったんだよ。何もかも管理、管理、管理。理不尽な法律はことば憲法だけじゃない。肥満憲法に貯蓄憲法、あとは……初体験法案は今からかな?多分、これも可決だろうけど。」 淡々と話す保にユリは混乱する。 「ちょ、ちょ、なに?肥満憲法?貯蓄に?は、は、初体験???なんの初なの?えっ、もしかして?ええ?」 「驚くのも無理ないけどさ。まず肥満憲法は国民の食生活が乱れてきたから、国が全国民の肥満度を管理することになったんだ。肥満は様々な成人病を引き起こす。それで国民の寿命が短いとさ、人口が極端に減って、国の経営がやばくなるじゃん?」 「まぁ、確かにそうだけど…でもそういうのって個人でやればいいことじゃない?それで貯蓄憲法は?金利でも上がって景気良くなったの?」 「まさか。寧ろ逆だ。貯蓄憲法で個人の資産を国がきちんと把握して管理することになった。つまりは誰がいくらの資産を持っているかバンクを通して全て国が管理している。当然、金利なんてシステムなんてとっくになくなった。」 「本当に?なんの目的でそうなったの?」 「要は運用資金づくりじゃね?それに大金を自由に使えなくすることで反逆者を抑え込みやすくなる。それから初体験は少子化対策の一つで童てーーー」 「も、も、もういいわ。何となくわかった。とにかく、この国の国民は全て政府の管理下にあるということなのね。」 「だな。」 ユリは大きくため息をつくと保に出してもらったゼロカロリーの【ヨワイン】を口にした。ちなみに【ヨワイン】とはいくら飲んでも酔わないワインのこと。しかもカロリーゼロ。が、決してノンアルコールではない。あくまで酔わないというだけなのだ。
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